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大阪高等裁判所 昭和40年(う)171号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

理由

論旨は量刑不当を主張するのである。

よつて所論にかんがみ記録を調査して案ずるに、被告人は昭和二五年五月から同三六年一一月まで交通違反による罰金の前科が八回あり、更に同三七年六月二五日大津地方裁判所において、速度違反による運転免許停止中の無免許運転と速度違反とで懲役二月、同二月、三年間執行猶予の言渡を受け、その後同三九年一月二四日大津簡易裁判所で道路交通法違反により罰金二、〇〇〇円に処せられているのにかかわらず、右猶予期間中又々本件無免許運転に及んだものであるから、このように遵法精神に欠ける被告人の刑責は極めて重大であり、本件の動機についても被告人に全く同情すべき点がないわけではないが、それとて原判決も指摘する如く社長たる被告人が運転しなくとも他に方法があつたことが認められ、特に従業員に率先して範を示すべき地位にある被告人が、法を無視してまで本件運転をしたことは許されない。これらの事情に照らすと、当審における事実の取調の結果や所論の点を十分検討しても、被告人に対しては、所論の如く執行猶予を付するのは相当でなく、実刑はやむを得ないといわなければならない。

ところで原判決は、被告人の運転する本件自動車の前方を自転車に乗つて同一方向に進行中の岩間由次郎が急に道路を斜め右に横断しようとしたため、被告人の車と接触して遂に死亡した事故について、被告人に過失を認め、その点を本件量刑上の主要な事情に加えていることは判文上明らかである。しかしながら、右事故については、被告人に刑事責任を追求するため未だ起訴がないのであるから起訴されていない事実をとらえて主要な量刑事情として考慮することは失当であるといわなければならない。してみると、被告人に対して懲役五月を言渡した原判決の刑は重きに失すると考えられるから、論旨はこの限度において理由がある。(笠松義資 八木直道 荒石利雄)

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